みなさん、こんにちは。
東京護国寺の 文字校正が得意なデザイン会社、株式会社ユー・エス・エスです。
企業名や人名、地名をローマ字表記する機会は少なくありませんが、日本語のローマ字表記には大きく分けて「ヘボン式」と「訓令式」の2つがあることをご存じでしょうか?どちらを使うべきか迷った経験がある方もいるかもしれませんね。
今回は、この2つの方式の違いとそれぞれの特徴、実務上どちらを採用すべきかについて詳しく解説します。また、近年のローマ字表記に関する重要な動きについてもお伝えします。
ローマ字とは、日本語の発音をラテン文字(アルファベット)で表記したものです。日本でローマ字が使われるようになったのは室町時代で、1549年に来日した宣教師たちがポルトガル語に基づいたローマ字を考案したのが始まりとされています。
英語が日本に広まると、1867年にアメリカ人医師のジェームス・カーティス・ヘボンが英語に基づいたローマ字で和英辞書「和英語林集成」を著しました。これが、英語とローマ字と日本語で書かれた最初の日本語辞典です。
ヘボン式は、ヘボン博士が作ったローマ字表記法です。英語話者にとって自然な発音になるよう工夫されているため、海外向けの情報発信に適しているとされています。
特徴は、発音に忠実である点です。例えば、「し」は「shi」、「ち」は「chi」、「つ」は「tsu」と表記します。そのため、海外の人が正しい発音をしやすい表記法となっています。
代表的な例を挙げると、
のようになります。
訓令式は、日本政府が1937年に公式に制定した表記法で、日本人にとって直感的でわかりやすく学習しやすいことを目的にしています。訓令式では、発音をそのままアルファベットに置き換えるのではなく、より体系的でシンプルなルールが用いられています。
具体的な特徴は、以下のようになります。
これにより、日本語の構造がわかりやすく、日本人が学習しやすいことがメリットです。
例を挙げると、
のようになります。
訓令式は五十音図に基づいており、日本語音韻の構造がよくわかるという利点があります。また、母音5文字(AIUEO)と子音14文字(KSTNHMYRWGZDBP)の計19文字のアルファベットを組み合わせるだけと、とてもシンプルな構造になっています。
長年、日本では訓令式が公式なローマ字表記方式として扱われてきましたが、実際の使用場面ではヘボン式が広く普及しています。この現状を踏まえ、日本政府は約70年ぶりにローマ字のつづり方の見直しを開始しました。
2022年9月から文化庁の国語課題小委員会でローマ字のつづり方に関する検討が始まり、2024年5月には文部科学相が文化審議会に正式に諮問しました。2025年3月11日には、文化審議会国語分科会の小委員会が今期の審議を大筋で取りまとめ、ヘボン式を基本とするつづり方を採用する方向性を示しました。
この動きは、ヘボン式ローマ字の普及と国際化に伴う外国人との交流増加を背景としています。
最新の動向を踏まえると、ヘボン式を基本とする方向性が示されています。特に海外向けのウェブサイト、パンフレット、名刺、観光ガイドなどでは、ヘボン式が主流です。
2025年3月11日に文化審議会国語分科会の小委員会がまとめた答申案では、ヘボン式を基本とし、長音は符号(マクロン)を付けて表すことなどが盛り込まれています。例えば、「母さん」は「kāsan」と表記します。符号を付けない場合は母音字を並べ、「kaasan」と書くことも可能です。
はねる音は「n」を用い、「あんまん」は「anman」、「乾杯」は「kanpai」と例示されています。つまる音は子音字を重ね、「鉄板」は「teppan」、「日直」は「nicchoku」などとなります。
ただし、国際的に定着している表記や人名、団体名については、直ちに変更を求めないとしています。
ローマ字表記は目的や対象読者によって適切に使い分けることが重要です。以下に具体的な場面ごとの使い分け例を示します。
ヘボン式は英語話者にとって自然な発音に近いため、外国人向けの情報発信に適しています。観光案内、ウェブサイト、パンフレット、名刺などで広く使用されています。
国内の学校教育では、訓令式が基本とされています。特に小学校の国語教育では、学習指導要領に基づき、訓令式ローマ字が指導されています。これは、訓令式が五十音図に基づき、日本語の音韻構造を反映しているため、日本語話者にとって直感的で学びやすいとされているためです。
現在、小学校の国語教育では訓令式が教えられていますが、英語の授業ではヘボン式が使用されており、この違いにより児童が混乱するケースも報告されています。このような背景から、文化庁の審議会では今後ヘボン式を基本とする方向性を検討しており、教育現場での統一が進む可能性があります。
行政文書では、現在も訓令式が使われることがあります。ただし、パスポートや住民票などの公的書類ではヘボン式が採用されており、国際的な場面での使用を考慮した対応が進んでいます。
また、訪日外国人向け案内や観光地のパンフレットなどでは一貫してヘボン式が採用されており、国際化を意識した公共分野での使用例が増加しています。
企業名や商品名をローマ字表記する場合は、グローバル展開を考慮してヘボン式を採用することが一般的です。ヘボン式は国際的に広く認知されており、ブランドイメージを損なうことなく伝えることができます。例えば、「富士通」を訓令式で「Huzitu」と表記すると海外では理解されにくいですが、「Fujitsu」であれば問題ありません。
いずれも、注意するポイントとして、
一貫性を保つこと 、対象読者を意識する、 固有名詞はヘボン式を推奨 、最新の公式ガイドラインに注意を払う
といったことが挙げられます。
「ヘボン式」と「訓令式」はそれぞれ異なる目的や特徴を持っています。重要なのは、どちらが正しいかを追求するよりも、目的や対象読者に応じて適切に使い分けることです。
文化審議会の小委員会は、ヘボン式を基本とするつづり方を採用する方向性を示しました。ただし、国際的に定着している表記や人名、団体名については、直ちに変更を求めないとしています。
今後の文化審議会の審議結果に注目しながら、グローバルな視点でのコミュニケーションを意識したローマ字表記の選択が、これからの情報発信には不可欠となるでしょう。